「これからの暮らし」の研究

2020年11月19日 取材

「2013年、いち早く樹脂窓をご採用いただいたのが、泉北ホームさんでした」
一般的なハウスメーカーでは見栄えにこだわるのに対して、住んでみないとわからない窓の断熱性能を重視してもらえたのはありがたいと話すのは、YKK AP株式会社で樹脂窓の企画・開発を取りまとめる河住昌和室長。

関西エリアにおけるYKK APの「APW」樹脂窓シリーズの販売数で、泉北ホームが3年連続1位になったこともあり、本社で「樹脂窓があたりまえの未来」について語り合う機会をいただきました。

日本だけが極端に遅れていた、樹脂窓の普及。

私たちYKK APが「APW」樹脂窓シリーズを発売したのは、2009年のことです。当時は、アルミサッシが主流で、樹脂窓といえば寒冷地仕様のものがあるだけでした。「全国向けに樹脂窓をつくる」と現社長の堀から聞いたときは、私も周囲もピンと来ていなかったのが正直なところです。

堀社長は優れた先見の明をお持ちだったんですね。何か確信がおありだったんでしょうか?

かつて堀が勤務していたアメリカではすでに樹脂窓が普及しており、自身も樹脂窓事業の立ち上げに関わった経験があるので、その優れた性能を熟知していたのだと思います。

海外の先進国は、建物の断熱性能や温度環境において厳しい基準が定められているので、樹脂窓の普及がいち早く進んでいました。樹脂窓の普及率を見ると、日本では現在まだ22%ですが、アメリカやドイツ、フランスなどの欧米では60~70%、お隣の韓国でも80%となっています。住宅そのものを高性能化するには、樹脂窓などによって開口部の断熱性能を高めることが重要です。この樹脂窓を日本でも普及させていくため、新たな商品の開発に取り組んでいきました。

※出典:[日本]日本サッシ協会 住宅建材使用状況調査(2020年3月版)、[イギリス、フランス、ドイツ]Interconnection Consulting(2016年)、[アメリカ Home Innovation Research Labs(2013年)、[韓国] 日本板硝子(株)調査データ(2011年)

日本国内向けの樹脂窓の開発では、どういったところに苦労されましたか?

やはり「品揃え」です。海外の樹脂窓は内側に開くドレーキップがスタンダードで、その他の種類は限定的ですが、日本では引き違い窓、縦すべり・横すべり窓、外倒し窓、シャッター付き、防火窓など、多様なバリエーションが求められます。そうしたニーズに応えていくには、日本独自の樹脂窓を開発していかねばなりませんでした。

ドレーキップの窓
ドレーキップの窓

また、樹脂=プラスチックという素材への「強度に対する誤解」です。「樹脂でできた窓枠です」と言うと、やはり壊れやすいプラスチックをイメージされる方が多かったんです。実際には、洗濯ばさみやバケツ等に用いられる「ポリエチレン」ではなく、配管などの社会インフラにも使われる「塩化ビニル樹脂」でできており、経年劣化に強いのが特長です。そういったことを弊社カタログやホームページで発信するほか、お客様・取引先様にきちんと説明していくことが必要になりました。

「樹脂窓を西日本にも広めたい」と、いち早く採用。

こうして誕生したのが「APW」樹脂窓シリーズです。トリプルガラスのAPW 430は、世界トップクラスの断熱性能を目指して開発した樹脂窓です。一方APW 330は、これを日本全国に普及させていくことをコンセプトに開発したスタンダードモデルです。カラーバリエーションや品揃えも豊富で、アルミやアルミ樹脂複合サッシを使われているお客様にも、これまでと同じような感覚で樹脂窓を選んでいただけるように取り組みました。

私たち泉北ホームが最初にYKK APの樹脂窓を採用することになったのは、ちょうど六甲の工場でAPW 330の製造が始まった2013年頃だったでしょうか。当時すでに「フル装備の家」は泉北ホームの代名詞でしたが、あくまで「キッチンやエアコンなどの住宅設備がフル装備」という意味で、現在のように構造や性能まで含めたものではありませんでした。「家を建てるときに、窓を気にする」という人は、いませんでしたから。ただ、実際に工場を見学させていただき、断熱性の重要性についてお話をうかがって、社長の山本が「この樹脂窓を西日本にも普及させたい」と採用することになりました。当時の標準仕様はアルミ樹脂複合サッシだけだったので、樹脂窓の採用で選択肢が広がるというのもありました。

当時、他のビルダー様では、樹脂窓のメリットを説明しても「ほかが採用していないから」と様子見する会社が大半でした。ところが泉北ホームさんに樹脂窓をご採用いただいたのをきっかけに、関西エリアの各社に採用が広がっていきました。「うちも使わないとまずいのでは」という波及効果は、間違いなくあったと思います。設備や間取りなどの見栄えする部分ではなく、実際に住んでみないとわからない快適性や安全性に率先して取り組んでいただけたのは、本当にありがたいと感じています。

樹脂窓の断熱性能についての資料を拝見したときは衝撃でしたから。また、断熱性能についていろいろとアドバイスをくださっている近畿大学の岩前教授から、「交通事故よりも家の中で死ぬ人の方が多い」「寒冷地よりも大阪の方が家の中で亡くなりやすい」といったお話をうかがったときもにわかには信じられませんでした。ただそれと同時に「これはなんとかしないといけない」と気づくこともできました。

※岩前 篤 教授:近畿大学建築学部長。断熱のエキスパート。経済産業省技術員をはじめ、国や市などの建築の省エネにかかわる技術的な評価、開発に携わる。

カタログだけではわからない樹脂窓の本領。

先ほど樹脂窓普及のポイントとして品揃えの拡充を挙げられていましたが、実際にお客様や私たちハウスメーカーの視点に立って取り組んでもらっていることを感じます。今でこそ縦すべり窓が増えてきていますが、やはりスタンダードなのは引き違い窓です。これがなければ話になりません。また、大阪府では6割のエリアが防火地域・準防火地域に指定されていますので、防火窓がラインナップされていることも重要でした。当時、他社の樹脂窓とも比較したのですが、やはりYKK APさんの品揃えは、「この樹脂窓を普及させるんだ」という力の入れ具合が見て取れるものでした。

引き違い窓を作っておいて良かったです(笑)。2020年には、APW 430でも防火窓を発売し、都市部でニーズが高いシャッター付きもラインナップに加わっています。やはり樹脂は金属に比べて火に弱く、防火の大臣認定を受けるためには、中に補強材を入れる等の対策が必要となります。トリプルガラスのAPW 430ではさらに開発が難しく、APWシリーズの誕生から10年かかってしまいましたが、泉北ホームさんをはじめ採用いただける方が増えつつあります。取り組んできて良かったと感じています。

防火窓はアルミ樹脂複合窓のほうが良いとお考えの方もいるかもしれません。ただ、やはり樹脂窓に比べると結露が起きやすいんです。窓をフレームとガラスに分解して熱貫流率を比較すると、フレームは樹脂窓の方が数倍高性能なんですね。こうした性能差は、結露の抑制につながります。もしも躯体のなかに隠れたフレーム部分で結露が起こったとしてもわからないし、拭き取れません。躯体を腐らせてしまう可能性もあるので、やはりおすすめしたいのは樹脂窓です。

そのあたりは、カタログのスペックだけではなかなか見分けがつかないところですね。

サイズごとの窓の断熱性能の違いも、お客様からは見えにくい部分ですね。窓の断熱性能は、ルールで定められた代表サイズのものを測定したら、それを全サイズの窓の性能と見なして良いことになっています。でも実は、アルミ樹脂複合サッシの場合、窓が小さくなればなるほど、単位面積あたりの断熱性能が低下していくんです。樹脂窓はフレームの断熱性能が高いので、小窓でも窓全体の単位面積あたりの断熱性能はあまり低下しません。小さなサイズの窓で比較したら、顕著に差が出ると思います。

普段から性能を計算している身としては、良くわかります。実際に、YKK APさんのショールームでアルミ樹脂複合サッシと樹脂窓を触り比べても、その断熱性能を実感できるのではないでしょうか。実際に住んでみて、快適な温度・湿度環境を保ち、結露しない家にできるのは樹脂窓だと思います。なかでもそのハイエンドモデルがAPW 430ですが、その採用方法については社内で議論になったことがありました。すべての窓をAPW 430にできればもちろんいいのですが、それなりのコストがかかります。「ヒートショックの起きやすいバスルームにだけ採用するのがいいのでは」「いやトイレ、廊下も必要だ」「いちばん過ごす時間が長いリビングが重要」など、さまざまな意見が飛び交いました。やはり最低限のコストで最大限の効果を得たいというのは、多くのお客様が求められるところなので。

おっしゃるとおりですね。もちろん、私たちとしては目に触れやすいリビングに採用していただきたい気持ちもありますが(笑)、コストを抑えようということであれば、水回りの断熱性能を優先的に上げるというのは賛成です。

互いの努力で、「樹脂窓があたりまえ」の日本に。

現在、日本における樹脂窓の普及率は22%とのことですが、これでもかなり増えましたよね。10年ほど前は数%だった記憶があります。

2000年代半ばに、樹脂窓とアルミ樹脂複合サッシを含めた断熱サッシが過半数を超えたのですが、それがひとつの潮目でした。それが今や86%ですから。関西エリアにおける樹脂窓の普及率は、日本全体とほぼ同等ですが、伸び率は著しいと感じます。首都圏エリアは樹脂窓の窓数は多いものの、比率で言うと実は低いんです。市場規模の大きい分譲住宅では、未だにアルミサッシが大半なので。

※出典:[日本]日本サッシ協会 住宅建材使用状況調査(2020年3月版)

泉北ホームでは、65%ほどのお客様が樹脂窓を採用されています。以前、APW 430のグレードアップキャンペーンを行った際も非常に大きな反響をいただきましたし、少しずつ「窓」が家づくりにとって重要なキーワードになりつつあると感じます。

泉北ホームさんは、全国展開しているデベロッパーも含めて、関西エリアにおけるAPWシリーズの販売実績が3年連続1位です。樹脂窓の普及を牽引していただいていることに感謝です。

以前は住まいの断熱性能において、窓はウィークポイントでした。採光や風通しの面から住まいに欠かせない窓ですが、「増やせば増やすほど寒くなる」ものだったと思います。しかし、樹脂窓は高い断熱性能を獲得してきており、APW 430に至っては、壁と同等と言っても過言ではありません。これは、日本の住まいの断熱におけるひとつの着地点ではないかと感じています。今の子どもたちが大人になる頃には、「家は寒くない(暑くない)のがあたりまえ」であってほしいですね。寒さを感じたら「おかしいな」と疑問に感じるくらいの世界になっていてほしい。そのためには、泉北ホームだけではなく、関西のハウスメーカー各社が切磋琢磨しながら断熱性能を高めていく必要があります。樹脂窓は、そのなかでも絶対条件になるでしょう。「耐震等級3と樹脂窓は外せないよね」という世界になってくれたら、微々たるものですが、私たちの努力にも意味が生まれるのかなと思います。

「樹脂窓をあたりまえに」というのは、本当に同感です。先に言われてしまいましたね(笑)。入社当初、北海道出身の同僚が「新築の家にアルミサッシが使われているのを初めて見た」と言っていて、「北海道は変わったところなんだな」と思っていました。しかし、今はその同僚の「常識」を全国に広げたいと考えています。弊社の販売数でも、まだまだ樹脂窓よりアルミ樹脂複合サッシの方が多い。現時点では、樹脂窓を採用しているだけでも差別化になるかもしれません。しかし、私としてはAPW 330をスタンダードに、より断熱性の高いAPW 430を差別化に役立ててほしいという想いがあります。そのために、これからも求めやすいコストや品揃えを実現できるよう取り組んでいくつもりです。常に商品を充実させていくことは、私たちメーカーの責務ですから。「どこを見渡しても樹脂窓の世界」は、そうした努力の先に待っているものと考えています。

※こちらのインタビューは2020年11月19日に行われたものです。

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