実際に松尾先生のセミナーを受講させていただき、あらゆる面において知識を深めることができたと感じています。特に松尾先生が以前から提唱されている「太陽に素直な設計」、つまり日射取得・日射遮蔽という点では、泉北ホームの営業担当者も設計士も非常に勉強になったと思います。
#対談 | 2021.3.5
夏涼しく、冬暖かいエコハウスは気密・断熱そして日差しから
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株式会社松尾設計室一級建築士事務所 代表取締役 室長
松尾 和也 氏
プロフィール
2005年「サスティナブル住宅賞」受賞。設計活動の傍ら、「日経アーキテクチュア」「日経ホームビルダー」「建築知識」 「新建ハウジング」等の専門誌への執筆活動や「断熱」「省エネ」に関する講演も行っており、受講した設計事務所、 工務店等は延べ6000社を超える。 [実績] 『エコハウス超入門 84の法則ですぐ分かる』(新建新聞社) 『5人の先生が教える一生幸せなエコハウスのつくりかた』(共著・エクスナレッジ ) 『ホントは安いエコハウス』(日経BP) 『あたらしい 家づくりの教科書』(共著・新建新聞社) ※プロフィールは2021年時点のものです。
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泉北ホーム株式会社 代表取締役社長
山本 隆
プロフィール
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泉北ホーム株式会社 設計部 部長 一級建築士
藤田 剛
プロフィール
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株式会社松尾設計室一級建築士事務所 代表取締役 室長
松尾 和也 氏
2005年「サスティナブル住宅賞」受賞。設計活動の傍ら、「日経アーキテクチュア」「日経ホームビルダー」「建築知識」 「新建ハウジング」等の専門誌への執筆活動や「断熱」「省エネ」に関する講演も行っており、受講した設計事務所、 工務店等は延べ6000社を超える。 [実績] 『エコハウス超入門 84の法則ですぐ分かる』(新建新聞社) 『5人の先生が教える一生幸せなエコハウスのつくりかた』(共著・エクスナレッジ ) 『ホントは安いエコハウス』(日経BP) 『あたらしい 家づくりの教科書』(共著・新建新聞社) ※プロフィールは2021年時点のものです。

泉北ホーム株式会社 代表取締役社長
山本 隆

泉北ホーム株式会社 設計部 部長 一級建築士
藤田 剛
近年注目が集まる気密・断熱性能に対して、まだまだその重要性を認知されていないのが「日射取得・日射遮蔽」※です。 このいわゆる「太陽に素直な設計」を学ぶため、泉北ホームは住宅温熱環境の第一人者であり、高断熱住宅の普及に尽力されてきた松尾設計室・松尾和也先生に協力を依頼。全8回のセミナー開催を経て、今回あらためて家づくりへの想いや泉北ホームへの忖度なしの評価をうかがいました。
※「日射取得・日射遮蔽」について
日射遮蔽とは、窓から侵入する日射を遮ること。夏季に遮熱タイプのガラスを用いるなどして、室内気温の上昇を抑えることができます。一方、日射取得とは、窓からの日射を室内に取り込むこと。冬季に高断熱タイプのガラスを用いて、日射による暖かさを得ることができます。日射遮蔽・日射取得をうまくコントロールすることは、温熱快適はもちろん、室内の暖冷房エネルギーの低減にも役立ちます。
※こちらのインタビューは2021年3月5日に行われたものです。
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目次
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県営住宅よりも暑く寒かった大手ハウスメーカーの住宅。

山本
松尾先生との出会いは、YKK AP主催のセミナーだったと記憶しています。その際に非常に感動しまして、「ぜひとも泉北ホームの社員にも聞かせてほしい」とお願いしたのが、お付き合いのはじまりでしたね。その後どんどん知識を吸収させていただき、2020年には全8回にわたる社内セミナーも開催していただきました。先生とのご縁には、本当に感謝しています。

松尾先生
こちらこそ、ありがとうございます。「フル装備の家」をはじめとする取り組みなどを拝見して、私自身も勉強になりました。

藤田
2010年を過ぎたあたりから、住まいの省エネや健康に関するセミナーが徐々に増えていきました。その際にスピーカーとして活躍されていたのが、近畿大学・岩前教授※や松尾先生でした。
※岩前 篤 教授:近畿大学建築学部長。住宅温熱環境の第一人者。経済産業省技術員をはじめ、国や市などの建築の省エネにかかわる技術的な評価、開発に携わる。

松尾先生
それまでの日本の住宅は、本当に「暑くて寒い」が当たり前だったんです。そこに住宅業界の一部の人々が違和感を抱き、樹脂窓を開発したばかりのYKK APや新建ハウジングなどのメディア、僕らのようなスピーカーが啓蒙を続けてきたことで、他社も避けて通れない状況ができあがっていきました。

藤田
松尾先生が熱環境を重視されるようになったのは、ご自身の経験がきっかけなんですよね。

松尾先生
高校1年生の頃に、県営住宅から大手ハウスメーカーの注文住宅に引っ越したんです。友達からも「お前ええ家に引っ越したな」なんて言われて誇らしく思っていましたが、いざ住んでみるとむちゃくちゃ暑いし寒い。県営住宅では中間層の中部屋だったこともあって、引っ越す前の方がはるかに涼しくて暖かかったんです。「これはおかしい」と感じて、大学で熱環境を学び、高断熱住宅の設計に取り組むようになりました。
デザインと性能は、ほぼ反比例の関係。

松尾先生
住宅業界では年間1000棟以上を施工するような企業を「ハウスメーカー」、それより小規模だけれど年間100棟くらいは超えるような企業を「パワービルダー」と呼びます。現在の大手ハウスメーカー7~8社は、平成28年省エネ基準のUA値※0.87は100%クリアしていると思います。2社ほど飛び抜けた会社がある一方、鉄骨系ハウスメーカーは、ZEHのUA値0.6が限界値となっています。一方でパワービルダーや工務店は、かなり幅が広いですね。今民間の基準ではHEAT20「G2」のUA値0.46が最高レベルですが、泉北ホームさんはこの「G2」あたりかな?

藤田
そうですね。基本的には「G1:UA値0.56以下」で、グレードを上げると「G2:UA値0.46以下」になるケースが多いです。十数年前の泉北ホームは、そこまで性能にこだわる会社ではありませんでした。ただ、松尾先生をはじめ、さまざまな方から学び取るなかで、その重要性を認識したんです。デザインの好みは「十人十色」ですが、安全や健康の重要性については議論の余地はありませんから。

松尾先生
デザインと性能は反比例の関係にあることが多いんですよね。それまでデザイナーズ住宅ばかりを手がけられていたある工務店の社長も、引き渡し当日が「最高の日」で入居後はクレームばかりだったそうです。ただ、その後高性能住宅に転換されて、お施主様の満足度が引き渡し後にどんどん上がっていくのを感じて、「転換して良かった」と話されていました。

山本
実際に住んでご満足いただけるからこそ、お施主様に別のお客様をご紹介いただけるのだと思います。それまでも当社では「逆目線」をモットーに「フル装備の家」などを提供してきましたが、暑すぎる・寒すぎることが当たり前ではなく、「夏は涼しく、冬は暖かい」を実現するための性能にもしっかり取り組んでいくことは、このエリアで多数の家づくりをご依頼いただいている泉北ホームの役目と感じています。

松尾先生
そうですね。有名な「マズローの欲求5段階説」によれば、寒さ・暑さから身を守りたいという「安全欲求」は、食欲・睡眠欲などの「生理的欲求」に次いで強いとされます。食糧不足などに悩まされることの少ない日本社会においては、同等と言ってもいいぐらい不可欠な要素だと思います。
冷暖房費を大きく削減する日射取得・日射遮蔽。

藤田

松尾先生
これまでの住宅業界では、どちらかというと「風」にばかり意識が向いていました。ただいくら風通しが良くても、大阪の夏をそれだけで我慢できるなんてことはありませんよね。そもそも風がいつ吹くかなんて、まさに「風まかせ」です。
それに対して「太陽」は、その動きを完璧に読むことができるし、冷暖房費の削減効果も絶大なんです。特に夏の日射遮蔽は簡単です。東西北面の窓を小さくして、窓ガラスを遮熱Low-eにし、南の窓はひさしかシェードを設ければいい。ただ冬の日射取得は、住宅の形状や近隣の住宅の影を考慮する必要があるので、非常に難易度が高いです。泉北ホームの皆さんにも課題に取り組んでいただきましたが、かなり苦労されたのではないでしょうか。特に泉北ホームさんが得意とされているような住宅密集エリアでは、きちんと学ばなければ角度の浅い冬の日射を取り込むことはできないと思います。

藤田
周辺状況を考えずに「とりあえず南側にリビング…」はやめて、きちんと「季節ごとの影の落ち方を踏まえてリビングの日当たりを確保する」などといった方法論を、非常に明確に教えていただけたと感じています。まだまだ注力する必要はありますが。

松尾先生
一つひとつの意味を考えながら設計を続けていただけたら、必ず変化が現れるはずです。

山本
営業担当者には図面を書く際、「お客様に親身になって道理をご説明しなさい」と話しています。そうすれば「この人は確かだな」と信頼していただける。先生にセミナーを開いていただいてからは、ご契約いただけるお客様がさらに増えてきた印象があります。おかげさまで2020年度は500棟※を超えそうな見込みです。

松尾先生
大阪のパワービルダーで500棟を超えているというのはすごいですね。

藤田
分譲住宅なら年間500棟以上の会社がありますが、注文住宅では無かったかと。社長の言うように、しっかりとお客様にご説明して信頼を得られたことも大きいと思います。最近では「泉北ホームではこの点についてどういう取り組みをしているのか」とエビデンス(根拠)を求めるお客様が増えてきていますし。

松尾先生
「『その根拠はなんですか』と聞いてみてください」というのは、私も発信し続けていることですね。おそらくきちんとエビデンスを出せない会社の営業は、「自社のパンフレットに書いてありますから」程度のことしか言えないでしょう。「西の窓が大きいけど、遮熱Low-eガラスを使っているから大丈夫です」なんて適当な説明をされたという相談もよく寄せられます。これまで住宅業界ではお客様は常に情報弱者でしたが、SNSなどが普及してからは逆転現象が起きつつあると感じています。
年間約500棟を手がけて「C値0.42」。 全国でも上位3社に入るのでは。


松尾先生
それにしても泉北ホームの皆さんは、実際にお会いすると非常に真面目で驚きました。やはりCMのイメージが強くて、ちょっとユニークな印象をもっていたので(笑)。それに社長のお人柄もあってか、社員一人ひとりが自分の持ち場でのびのびと力を発揮されていますね。これだけの規模の会社なのに、社員が「社長、そんなことないですよ(笑)!」みたいにツッコめる空気感はすごいなと思います。

山本
みんなに力を発揮してもらえるのが一番ですからね。顔が怖そうに見えるので意外に思われるかもしれませんが(笑)、「低姿勢で丸く収める」というのは、若い頃から社長になった今も変わらない私の信念です。

松尾先生
家づくりに関しても、この価格でここまでの性能・装備設備を実現されているのであれば、もうほとんどのお客様は泉北ホームさんでいいんじゃないかと思ってしまうぐらいです。UA値は先ほどうかがいましたが、C値※はどれくらいですか?

藤田
C値は昨年度の測定平均で0.42※です。

松尾先生
それはすごいですね。年間約500棟を手がけられていてこれだけの数値というのは、全国の住宅会社を見渡しても上位3社に入るのではないでしょうか。一方で今後高めていっていただきたいところは、先ほどから話題に上っている日射取得・日射遮蔽ですね。すでにセミナーでお伝えしたことを、担当者の方一人ひとりがいかに実践していくかにかかっていると思います。
「全館空調システム」は、特殊だからこそ交換費用も高額。


松尾先生
あとは冷暖房計画です。たとえば自動車を購入したときに「エアコンについては、あとでカー用品店で買って取り付けてもらってください」なんて言われることはありえないですよね。ところが住宅業界では、最初から冷暖房を設計に組み込んでいるケースがほとんどありません。自分で家電量販店に行って選択しないといけないわけです。実のところ、高い断熱・気密性能があればエアコンは最低限の容量、台数で充分なのですが、それも一般的にはあまり知られていません。

藤田
ドアを開けて1台のエアコンを運転すれば廊下も含めたフロア全体を暖かくできるのに、エアコンを各部屋に取り付けて個別に運転してしまっているケースはよくありますよね。性能値を高めることは手段であり、目的は「いかに快適に暮らしていただくか」。そのことを忘れず取り組んでいく必要性を感じています。

松尾先生
だからこそ冷暖房計画が重要になってくるんですね。高額な「全館空調システム」と呼ばれるものもありますが、特殊なシステムは交換費用も高額です。うちの実家もリビングとダイニングに天井カセット形エアコンが付いていますが、故障してそのまま。それとは別に家電量販店で購入した壁掛けエアコンを取り付けています(笑)。笑い話のようですが、よくある話です。

藤田
シンプルに家中が暖かくなる手段がきちんとあるので、そちらを選択するのがベストですよね。

山本
お求めやすい価格帯で、良い家を提供するというのが、私たちの変わらぬ想いです。2~3台のエアコンで家全体を暖かく・涼しくする冷暖房計画については、「近々、実際に体感できるモデルハウスを建てよう」と考えています。

松尾先生
それが一番早いと思います。実際に自分たちで建ててみて実証できれば、お客様にも自信をもっておすすめできるでしょうから。
泉北ホームとも共通するモットー「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」。


松尾先生
松尾設計室のモットーとして掲げているのが、「健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現する」です。これは泉北ホームさんの想いとも共通するところかもしれませんね。お金をかければいくらでも高性能な住宅はできるのですが、それでは金持ちの道楽で終わってしまいます。また、工事費などの初期コストが安価であれば良いということでもありません。築40年ほどが経てば、光熱費や維持費などのランニングコストの方が大きくなるので、あくまでもトータルコストとして経済的な省エネ住宅の実現を重視しています。

山本
一部の限られた人だけではなく、すべての人にリーズナブルで快適な住まいを提供していくというのは、本当に重要ですね。泉北ホームでは最高級のプレミアムパッケージから、さらに気密・断熱性をプラスできる「+℃ermo(プラスサーモ)」や価格を抑えたスマイルパッケージまでラインナップしていますが、低価格だから性能が悪いということは一切ありません。すべてZEH断熱基準を最低基準としています。それに最近では、スマイルパッケージのベースである「30坪」がベストな広さなのではとも考えています。広すぎる家は掃除が大変ですし、固定資産税や光熱費もかさみます。子どもたちがいずれ巣立つことを考えれば、30坪がリーズナブルかつ快適な住まいのひとつの答えかもしれませんね。

松尾先生
泉北ホームさんの住宅は、最新のハイブリッドカーのようですね。高級車ではないけど燃費は非常に良く、多くの方にも手が届くけれど性能が担保されているので。日本では、イメージだけの謳い文句に惑わされずにまともな住宅を建てようと思ったら、かなりの勉強が必要です。「うちは〇〇工法だから安心です」と言われても、他社との比較が難しい。その点、EUでは家の燃費の表示義務と最低基準を定めた「エネルギーパス」という制度があります。有資格者が定められた計算方法に則って評価するので、住宅会社にだまされて失敗するリスクがほぼゼロなんです。逆に言えば、最低基準を下回る住宅は建てられないということです。日本でも同様に、「性能・価格の面で、泉北ホームさんの水準を下回る住宅が日本からなくなる」というのが、最終的な僕の理想です。

山本
松尾先生にそう言っていただけると、今夜はよく眠れそうです。

一同
(笑)
対談を終えて

「泉北ホームさんの水準を下回る住宅が日本からなくなるというのが、最終的な僕の理想です。」 今回の対談では、松尾和也先生より、これ以上ないお言葉をいただけました。
健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現するためには、 多様な分野の研究者との協力関係は欠かせません。
さらなる住まいの性能や設計力の向上を目指して。 想いを同じくする熱環境の第一人者・松尾先生には、 アドバイザーとしてこれからも泉北ホームの研究活動にご協力いただきます。